標準治療 //

◎標準治療とは

 「標準治療」とは,これまでの臨床データに基づいて専門家が集まって議論し,「その時点で最良の治療」と合意が得られた治療のことです.標準という言葉の意味から,普通の治療だから最良の治療ではないと誤解されてしまうことがあります.「広く推奨される治療」といった意味合いで標準治療と言っています.

 医療においては「最先端の治療」は最良の治療とは限りません.最先端の治療は効果や副作用などがわかっていない臨床データがまだない治療のことです.もしかしたら効果があるかもしれませんし,もしかしたら効果がなく副作用の強い治療かもしれません.つまり,効果がわからない実験的な治療を指します.最先端の治療は臨床試験を行うことで評価し,標準治療よりも優れていることが証明できてはじめて標準治療となります.

 よって,一般的には「標準治療」の方が「最先端の治療」より優れていると言えます.実際,動物実験で効果があると証明された最先端の治療があったとしても,その治療は人間にも本当に効果があるとは限らず,効果や安全性について臨床試験を行わなければ標準治療にはなり得ません.多くの最先端の治療は臨床試験の段階で効果や安全性を証明することができず,消えていってしまいます.しかし,医療の進歩のためにも臨床試験が重要であることもまた事実です.

◎ガイドライン

 ガイドラインとは,これまでの臨床データに基づいて専門家が集まって議論し,標準治療として合意が得られたものをまとめたものです.つまり「その時点で最良の治療」を示したものです.

 多くの場合はガイドラインに基づいて治療を行いますが,ガイドラインに書かれているのは一般論であり,個々の治療はガイドラインに書かれていません.例えばあるがんに対してどんな抗がん剤が推奨されるかガイドラインに書かれています.しかしそれは元気な若いがん患者さんに対して推奨される治療であって,高齢のがん患者さんでも推奨されるかどうか不明です.個々の患者さんにとって最良の治療は千差万別です.そのため,ガイドラインを参考にしつつ,個々の患者さんにとって最良の治療を模索するのが医療の実際です.

◎新薬

 日々数多くの新薬が治療に使えるようになっています.治療の選択肢が増えることは大変ありがたいことです.ただし,新薬には注意が必要です.新薬として承認されるためには臨床試験で効果や副作用などが十分に検討されていますが,限られた人数でのデータしかありません.市販されると桁違いの患者さんに使用され,その後に効果や副作用が再検討されます.つまり,従来の数多くの患者さんに効果が証明されている薬と比べて,新薬が優れているかどうかは発売された段階ではまだ未知数です.100万人に実績のある古い薬と1000人に効果があった新薬とを比べて,どちらがいいかは発売した段階ではわからないものです.更に新薬は多くの場合において高価ですので,費用対効果についても検討が必要です.

◎臨床試験

 医療は臨床データ(臨床試験)に基づいて行われているといっても過言ではありません.ある病気の患者さんに標準治療であるAという治療と新しい治療であるBという治療を行ったところ,Aの死亡率が20%で,Bの死亡率が10%だったら,50%死亡率を低下させたので,より優れた効果(優越性)が証明され,Bが新たな標準治療になります.また,ある病気の患者さんに標準治療であるAという治療と新しい治療であるBという治療を行ったところ,Aの死亡率が20%で,Bの死亡率が20%だったので同等の効果(非劣勢)が証明され,Aに加えてBも標準治療に追加されます.こうした臨床試験の積み重ねによって医療は進歩しています.

 ただし,すべての治療がこんな単純ではなく,同じような臨床試験であっても異なる結果であったり,そもそも臨床試験がない治療があったり,いろいろです.また優越性はわかりやすいですが,非劣勢の解釈は難しいです.Aに対してBの優越性が証明され,Bに対してCの非劣勢が証明されたら,BとCが標準治療になります.しかし,よく考えてみると,Aに対するCの優越性は不明です.更にCに対するDの非劣勢が証明されたら,Dも標準治療になりますが,Aに対するDの優越性は不明です.これが繰り返されると,わけが分からなくなってしまい,本当にどれが最適な治療かどうか判断が難しくなることもあります.

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