• 松下公治

成人鼠径ヘルニアの手術の比較:鼠径部切開法と腹腔鏡下手術の違い

最終更新: 7月5日

 成人鼠径ヘルニアは手術方法(術式)が多種多様です。サイトにも代表的な術式を挙げましたが、「どの手術がいいのか?」は悩ましい問題です。今回は、成人鼠径ヘルニアの術式の比較について詳しく説明します。




◎日本の鼠径ヘルニアガイドラインは?


 まず重要な指針となる、日本の鼠径ヘルニアガイドラインである「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015」を見てみましょう。要点は以下の通りです。

・推奨される手術は、再発率が低く、合併症の発生が少ない術式。

組織縫合法推奨できない

鼠径部切開法(リヒテンシュタイン法、プラグ法、PHS法、UHS法、TIPP法、ダイレクトクーゲル法、クーゲル法)の手術成績は術式間で大きな差はなく、術者が習熟した術式を行うことが勧められる。

腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)は手技に十分習熟した外科医が実施する場合には推奨できる。TAPP法とTEPは同等

腹腔鏡下手術は鼠径部切開法と比較すると、手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早く、早期社会復帰に適している。医療コストは高いものの、術後疼痛の軽減、早期回復、早期社会復帰による社会医療経済的側面は優れている。ヘルニア再発率は同等。周術期合併症は同等または増加する可能性があるが、術後合併症は減少する。


◎国際的な鼠径ヘルニアガイドラインは?

 次に、国際的な鼠径ヘルニアガイドラインである「International guidelines for groin hernia management(2018年)」を見てみましょう。これは、ヨーロッパヘルニア学会(EHS)、国際内視鏡ヘルニア学会(IEHS)、欧州内視鏡外科学会(EAES)、アメリカヘルニア学会(AHS)、アジア太平洋ヘルニア学会(APHS)、オーストラリアヘルニア学会、アフリカ・中東ヘルニア学会(AMEHS)の7学会が共同で発表したもので、世界のスタンダードと言ってもいいガイドラインです。要点は以下の通りです。

・推奨される手術については、合併症(痛み、再発)のリスク、習得が容易、迅速な回復、再現性のある結果、費用対効果を考慮する必要がある。

組織縫合法推奨できないが、メッシュが使えない場合は再発率の低いショルダイス法を勧める。

鼠径部切開法ではリヒテンシュタイン法を推奨し、他は推奨できない。プラグ法・PHS法はリヒテンシュタイン法と比較して、再発率や慢性疼痛は同等だが、異物量が多く、オンレイとアンダーレイの両方に瘢痕ができるため推奨できない。ダイレクトクーゲル法・TIPP法・クーゲル法はリヒテンシュタイン法と比較して、痛みが少なく、回復が早いが、コストが高く、形状記憶リングに注意が必要で、推奨できない。

腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)は十分な技術・経験のある外科医が行えば推奨される。TAPP法とTEP法は、手術時間、合併症のリスク、術後疼痛、慢性疼痛、再発率、コストは同等。非常に稀なものの、TAPP法は内蔵損傷とポートサイトヘルニアのリスクがあり、TEP法は血管損傷と術式変更のリスクがある。

腹腔鏡下手術は鼠径部切開法と比較すると、手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早い。医療コストは高いものの、術後疼痛の軽減、早期回復、早期社会復帰を考慮すると社会医療経済的側面は優れている。ヘルニア再発率は同等。周術期合併症は同等または増加する可能性があるが、術後合併症は減少する。

◎結局どの術式がいいのか?

 要点のみを列挙しましたが、それでも推奨内容が複雑で、どの手術を選ぶか悩ましいところです。ガイドラインはリンクから原文が公開されているので、興味のある方はご覧ください。

 両方のガイドラインで推奨されている術式は、リヒテンシュタイン法腹腔鏡下手術のTAPP法とTEP法です。これ以外の術式がダメと言っているわけではなく、推奨するだけのエビデンス、根拠が不足しているということです。今後、論文で新たなデータが明らかになると、推奨内容が変更されますので、あくまでガイドラインが発表された時点での推奨です。学会でもこの話題はよく議論されており、まだ最終的な結論は出ていません。

 ガイドラインでも述べられていますが、術式の違いは重要であるものの、それ以上に術者の技量が重要で、同じ手術でも術者の違いで成績の報告内容がかなり違います。私個人の意見も、「どの手術を受けるかは重要だけれども、術者の技量の方がより重要である」と考えています。


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