鼠径ヘルニア(脱腸)の治療

 

◎鼠径ヘルニア(脱腸)の治療法は?

 鼠径ヘルニア(脱腸)とはお腹の壁に穴があいて,タイヤがパンクしているのと同じような状態です.そのため自然に治癒することはなく,手術で穴を塞ぐ必要があります.以前は糸で穴を縫い合わせて塞いでいました.しかし痛みが強く,回復に時間がかかり,再発が多いことから,現在ではメッシュによる補強が一般的になっています.

◎鼠径ヘルニアの手術の比較

 鼠径ヘルニアの手術を理解するためのキーワードは,「オンレイ」「アンダーレイ」です.レイとはレイヤー(layer)、つまり層のことです.オンレイは層の上,つまりヘルニア門(穴)の表面側にメッシュを敷くという意味です.アンダーレイは層の下,つまりヘルニア門の奥側にメッシュを敷くという意味です.

①組織縫合法

 メッシュが無かった時代には標準的な手術でしたが,現在はほとんど行われていません.お腹を約4-5cm切って穴を探し,筋膜や筋肉を糸で縫い合わせて穴を閉じる方法です.現在ではヘルニア嵌頓した場合の緊急手術や若い女性の小さい外鼠径ヘルニアで行われることがあり,以下のような様々な方法があります.日本のガイドラインでも国際的なガイドラインでも推奨されていません

・利点:メッシュ(異物)が体内に残らない

・欠点:傷が大きい,痛みがとても強い,回復に時間がかかる,再発が多い

 a. Marcy法(マーシー法)

 b. Shouldice法(ショルダイス法)

 c. Bassini法(バッシーニ法)

 d. McVay法(マックベイ法)

②鼠径部切開法

 現在最も普及している手術方法です.お腹を約3-5cm切って穴を探し,穴をメッシュを塞ぐ方法です.メッシュはポリプロピレン又はポリエステル製のものが使われます.​ヘルニア門への到達方法やメッシュの敷き方によって,以下のような様々な方法があります.国際的なガイドラインでは「a. Lichtenstein法」が推奨されており,日本のガイドラインではどれも差がないとしています.

・利点:組織縫合法と比べて痛みが軽減し再発が少ない,全国どこでも手術が受けられる

・欠点:傷が大きい,痛みがやや強い,回復に少し時間がかかる

 a. Lichtenstein法(リヒテンシュタイン法):欧米では一般的な手術法で,オンレイにメッシュを敷きます.

 b. Plug法(プラグ法):プラグメッシュで穴を塞ぎ,更にオンレイにメッシュを敷きます.

 c. PHS法,UHS法:オンレイとアンダーレイの2層にメッシュを敷きます.

 d. TIPP法:内側はアンダーレイに外側はオンレイにまたがっての1層にメッシュを敷きます.

 e. Direct Kugel法(ダイレクトクーゲル法):アンダーレイにメッシュを敷きます.

​ f. Kugel法(クーゲル法):鼠径管を開かずにヘルニア門に到達し,アンダーレイにメッシュを敷きます.

③腹腔鏡下手術

 お腹に約5-10mmの穴を3ヶ所開け,腹腔鏡でヘルニアの穴を確認し,内側(アンダーレイ)にメッシュを敷いて穴を塞ぎます.下図はTAPP法の術中画像で,左図の矢印には穴がありません(正常です)が,右図の矢印には穴があり(鼠径ヘルニアです),この穴から腸が脱出します.全身麻酔ですので,完全に寝ている間に手術は終わります.国際的なガイドライン,日本のガイドラインでいずれでも推奨されています.

・利点:傷が小さい,痛みが軽い,社会復帰が早い,同じ傷で両側手術できる

・欠点:高額な機器を揃える必要がある,術者が未熟だと合併症が多い,術者が習熟するのに時間がかかる

 a. TAPP法(タップ法):腹腔内(お腹の中)からヘルニア門を直接観察して穴を塞ぐ方法で,アンダーレイにメッシュを敷きます.ヘルニア門をカメラで直接確認できるので,正確な診断ができ,適切な位置にメッシュを敷いて補強できます.

 b. TEP法(テップ法):腹腔鏡を用いてクーゲル法を行うような手術で,アンダーレイにメッシュを敷きます.

 

◎鼠径ヘルニアにどの手術(術式)を選びますか?

 日本のガイドラインでは組織縫合法は推奨されていません.鼠径部切開法は術式間で大きな差はなく,術者が習熟した術式を選択することを勧めています.腹腔鏡下手術は手技に十分習熟した外科医が実施する場合という条件付きで推奨されています.つまり術者が習熟した手術方法を選択することを推奨しています.鼠径部の解剖は複雑で,個人によってその形も違い,ヘルニア門(穴)やヘルニア嚢(袋)の形は様々で,腹壁の脆弱性は人それぞれです.その多様な病態に対応できる知識と技量が必要です.そのため,術者が得意とする手術方法を選ぶことを奨励しているのだと思います.

 国際的なガイドラインでは組織縫合法は推奨されていません.鼠径部切開法はLichtenstein法が推奨されています.腹腔鏡下手術は手技に十分習熟した外科医が実施する場合という条件付きで推奨されています.つまり,Lichtenstein法と腹腔鏡下手術を推奨しています.国際的なガイドラインは日本のガイドラインとは違い,これまでのエビデンス(論文による治療成績の報告)に基づいて何を推奨するか検討されており,そのため実績のある手術が推奨されているのだと思います.

◎私の鼠径ヘルニア手術の特徴

 鼠径ヘルニアの手術は消化器外科手術の中で最も頻度が高く,私が最も力を注いでいる手術です.これは簡単な手術かどうかと聞かれることがよくあります.手術時間は1時間程度で,腹壁の手術なので,身体の負担は比較的少ない手術です.しかし,鼠径部の構造は複雑で個人差があり,手術操作は腹膜切開,腹膜前腔の剥離,メッシュの留置と固定,腹膜縫合など多彩なため,決して簡単とは言えない手術です.だからこそやり甲斐があり,精度の高い手術を目指しています.

 私は③腹腔鏡下手術 a. TAPP法を第一選択としています.TAPP法は傷が小さく,術後の痛みが少なく,社会復帰が早いなど,患者さんにとってメリットが多い術式です.更に,直接観察し正確な診断ができ,カメラで拡大視して繊細な手術ができ,適切な位置に大きいメッシュを敷いて補強できることなども,手術の質にこだわる外科医にとっては嬉しい利点です.なにより,これまで様々な術式をやってきた中で,これらのメリットがあるため患者さんの満足度が最も高いことがこの術式を選んでいる一番の理由です.

 また,全国でも先進的な日帰り腹腔鏡鼠径ヘルニア手術も行っています.傷が小さいため痛みが少なく,回復が早い腹腔鏡下手術とその日に帰宅する日帰り手術の組み合わせは理想的な方法です.日帰り手術の普及が遅れている日本ではまだ一般的ではありませんが,安全に施行し,多くの方に満足していただけるように力を注いでいます.

◎ヘルニア手術の動画

 日帰りで実際に行った鼠径ヘルニア手術(TAPP法)の動画を公開しています.手術動画ですので,苦手な方は閲覧にご注意ください.

◎鼠径ヘルニア手術の費用は?

 保険診療ですので,手術などの単価は全国一律です.ただし,日帰り手術の場合は入院費用が不要であるため,その分だけ安くなります.保険の種類や収入によって自己負担額は変わりますので,ご希望の方は事前に受付窓口で概算を確認することできます.

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